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なにもしてあげられることがない

常夜灯に明かりを落とした部屋のベッドで
バーサンが「あー。あー」と声をあげている。

ちかごろは、ほとんど声も出さなくなっているのに
「あー。あー。あー」

呼吸が苦しそうなようでもなくて、ただ
「あー。あー。あー」

「どうしたの?」と、顔をのぞき込めば
目元に、涙。薄明かりに、かすかに光って見えた。

ああ、死に行くことって、怖いよね、悲しいよね。
でも
あなたの孫娘が言っていたよ
「おじいちゃんも まっているから」
彼女は、祖父の顔を知らないはずなのに。
「おじいちゃんがまってるよ」

死に行くことって、怖いのね、悲しいのね。
でも、あなたの愛娘も待っているから、きっと。
あなたが老後を見て欲しかったのに、21歳で身罷った美人の姉娘。

「あー。あー。あー」
不出来の末娘は、そっと手をなでるしかできない。
「だいじょうぶだよ、だいじょうぶだよ」
何の根拠もないけれど、つぶやきながら、そっと手をなでる。

生きながらの骨格標本みたいになっちゃった、痩せた手をなでる。
お菓子の家で魔女がだまされたという鳥の骨も
これほどは痩せてなかっただろう、と想いながら。

「あー。あー。あー」
おやすみ、バーサン、もう日付が変わる。
おやすみ、バーサン、明日は目を覚ましてね。

あと何日、あなたの娘でいられるだろう。
おやすみなさい、かあさん。
by hidaneko | 2012-05-20 00:25 | かいご | Trackback | Comments(4)
Commented by リバー at 2012-05-20 14:34 x
ひだねこさん

この書き込みを読んで お母様は あなたに、
大事な愛しい娘に

「ありがとう」

と言っているのでは、と感じました。

精一杯の力を振り絞って 「ありがとう」と ・・・
Commented by わた at 2012-05-20 16:27 x
ひだねこさん、おつかれさまです。

私ったら・・・長いことご無沙汰していて
今日まで何にも知らずにいました。
ごめんなさい。
こんなにひだねこさんの心が大変な時に。

思い出します。亡くなった父のこと。
延命治療はしませんって決めたあとの
胸のなかのざわざわ・・

ひだねこさん。
ちゃんとみてるよ。
みんなしってるよ。

だれよりもおかあさまが。

あなたがしてきたことも、あなたができなかったことも、
あなたがあいしたことも、あなたがにくんだことも、
・・・すべてしってるよ。

だから、もうなにもくやまないで
ないてもいいけどこわがらないで。
なすがままに・・・

そのときにおかあさまはきっときっと
あなたにありがとうをつたえてくれるよ。
ぎゅっとてをにぎってあげてください。
たくさんのことをおしえてくれたおかあさまに
ありがとうっていってあげてください。

少しでもたくさん眠ってくたびれすぎないように。
おいしいものを少しずつ食べて体と心を保ってください。

>あと何日、あなたの娘でいられるだろう

・・・あなたが生きている間ずっとです(^_-)-☆



Commented by hidaneko at 2012-05-20 21:19
>リバーさん

どうも真夜中に書く文章は、感傷的になっていけませんね。
お恥ずかしい限りです・・・。
Commented by hidaneko at 2012-05-20 22:01
>わたさん
>延命治療はしませんって決めたあとの
>胸のなかのざわざわ・・

覚悟を決めていても・・・心は揺れますね。

>>あと何日、あなたの娘でいられるだろう
>・・・あなたが生きている間ずっとです(^_-)-☆

ありがとう。そうっか〜、そうなんだよね。


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