むかしむかし、この町には本屋さんが沢山あった。
高校からの帰り道、4,5軒ハシゴできるほどに。
中でも、繁華街の通りに、
ほぼ斜めに向かい合わせにあった2軒、H社とB堂は
老舗で、店も大きく品揃えも豊かだった。
十字路の角にあるH社は、待ち合わせに最適の場所だった。
一階の雑誌や、文芸書、
二階には参考書や文庫本など。
読みながら待てば、遅刻されても気にならない。
時代がかわって、本屋がつぎつぎに潰れていっても
繁華街のH社とB堂は、堂々と残っていた。
B堂の奥の児童書売り場は、狭いながらも充実してるし
H社も店売りの他に、官公庁や図書館にも納品して
地元に根を下ろしていた。
……と、思っていたら、H社が潰れた。
本好きの人たちが「まさか!」と思った。
(なんでもバブルの頃、本業の他に手を出した結果らしい。
本屋としては採算が取れていたという)
新聞でも大きく取り上げられ、
閉店まぎわの店に、人が押しかけた。
2010年1月31日21:00
閉店時間には惜しむ人が店の内外に大勢いたという。
時代の流れなのかな。
郊外のショッピングセンターには書店が入っているが
流行の本と、雑誌類がほとんどで、店の顔が見えない。
惜しまれながら閉店したH社だが、
しばらくして、店主だった人が、
個人的に本屋を開いたというのだ。
繁華街から少し離れているけれど
こぢんまりして、良い店だという。
そのことを聞いたのは、だいぶ前のことなんだけど
行きたい、行きたいと思いつつ、
そっち方面に足が伸びなかったのだ。
その間にも、
展覧会や講演会や、演奏会のほか、
出店者を募り、近くの道での一箱古本市など
様々なイベント企画もしていると、
あちこちから聞こえてくる。
図書館の人だけでなく、ヨガの先生や、
マイコレのお客さんからもうわさを聞いてる。
で、とうとう……
今日行ってきたのだ〜!
うふふ。
バーサンを送り出して、
整体マッサージに行った帰りに
思いきって、寄ってきました。
遠くはないのよ。
ただ、足の故障のあるわたしには歩くには遠く、
バスの便も悪い、というだけ。
いい店でした。K書店。
本がびっしり…というのではなく、
一冊一冊が、呼吸しているかんじ。
背を見せて並んだり、表紙を見せて置かれたり、
適当なスペースに置かれた本は、にこにこと、
いかにも本好きの店主が、選び抜いた本、という感じ。
並べ方も面白い。
料理・レシピ本の棚に「こまったさん」のシリーズが挟まってる。
子ども向けの童話で、お話に登場する料理には、
たしかにレシピもついてたはず。
そんなふうに、関連する本が
十進分類法とは関係なく集められている。
「暮しの手帖」のコーナーもあった。
特別展示なのかな、
壁に、古い『暮しの手帖』のページのコピーが貼ってあったり、
社の出版したエッセイ集や料理本も懐かしかったけど
『アラバマ物語』が並んでいたのにびっくり。
絶版かと思ってた。初版本が黄ばんで家にあるはず。
猫が好きらしく、
あちこちの棚に、猫がいた。
本やカレンダー、置物などなど。
それが嫌味ではなく、センスの良い
さり気なさで置いてある。
久しぶりに、本に呼ばれた。
すごく久しぶりの感覚だった。
本棚から、本が呼ぶのよ
「わたしを見て。わたしを読んで」と。
以前、本屋に入り浸っていた頃はよく感じたのだけれど
近ごろはさっぱりだったから、嬉しかった。